別記事で、プロデューサータグについて「なんて言っているのか?」という目線で記事を書いてきました。
そこで疑問に思ったのが、そもそもプロデューサータグってなんだろう?という疑問です。
生まれた背景や、プロデューサータグが使われる意味など、個人的なまとめもかねて、整理してお伝えします。
プロデューサータグとは?(定義・意味)
そもそもプロデューサータグとはなんなのか?
信頼性のあるソースを参照しつつ、整理してみます。
こちらのサイトはXXL、1997年創刊のアメリカのヒップホップ専門誌です。
プロデューサータグについての記述が以下です。
In hip-hop today, the tags add to a song, creating hype and anticipation when the song has barely started.
50 of the Greatest Producer Tags in Hip-Hop
つまり、プロデューサータグを「今日のヒップホップにおいて、特に曲の始まったばかりの段階に挿入されるもの」と定義しています。
One of the ways producers separate themselves from the pack is with a tag, an audio drop that plays during their beats that makes it clear who produced the track.
50 of the Greatest Producer Tags in Hip-Hop
つまり、プロデューサータグをほかの作品と差別化する方法であり、誰がトラックを作ったかを明確にするものであるとしています。
1997年創刊、権威のあるこの雑誌の定義には信頼性があります。
一応補足すると、アメリカの若者向け情報メディア「Complex」も同様に以下の定義をしています。
Producer tags were first used as a way for beatmakers to identify themselves on songs,
The Best Hip-Hop Producer Tags
訳すと、プロデューサータグは「当初楽曲中で、自身の作品であると識別するために入れられた」ものです。
これらの情報を参考に整理します。
プロデューサータグとは「楽曲の先頭に挿入され、楽曲のプロデューサーを明確に示すためのもの」といえます。
「シグネチャーサウンド」「サウンドロゴ」「ネームタグ」など似た概念がありますが、これらについてはまたいつか書かせて下さい。
なぜプロデューサータグが生まれたのか?(由来・文化背景)
それではなぜプロデューサータグが生まれたのか、背景を整理してみます。
プロデューサータグが生まれたのはいつ?
まずはいつプロデューサータグが生まれたかについてです。
1905年創刊、アメリカの老舗エンタメメディアVARIETYのウェブ記事を引用します。
With roots in ’90s mixtape culture, when DJs would shout their name over tracks,
Are Producer Tags on Hip-Hop Songs a Mark of Quality, or Just Noise?
訳すと「90年代のミックステープ文化にルーツを持つタグは、DJがトラック上で自身の名前を叫んだ時代から発展した。」
やはり起源には、プロデューサーが自身の作品だと誇示するシャウトがありそうです。
こちらは日本のメディアJ-WAVEを引用します。
音楽プロデューサーのTJOが、Just Blazeを例に挙げつつこのように語っています。
諸説あって、時期は90年代後半〜2000年初頭に使い始めた人が多い
プロデューサーの地位向上にも貢献。“知らない間に耳にしている”プロデューサータグを解説
どちらも起源が1990年代からという記述が一致します。
プロデューサータグが生まれたのは1990年代ということで間違いなさそうです。
なぜプロデューサータグは生まれたか?
つぎに、なぜプロデューサータグが生まれたのかを整理します。
プロデューサーの地位向上のため
tags have become a way to build brand equity in an industry where producers got credit only in album liner notes (which virtually have become an Easter egg hunt in the streaming age).
Are Producer Tags on Hip-Hop Songs a Mark of Quality, or Just Noise?
「プロデューサーがアルバムのライナーノーツでしかクレジットされなかった業界でブランドエクイティを構築する方法となった」つまり、クレジットを読むようなコアなファンしか知りえなかったのです。
曲中に印象的な音が挿入されれば、一般的な聞き手であっても「なんの音なのか?」と疑問を持ちます。
そうしたきっかけは、プロデューサーの認知度を高め、地位を向上させる役割を果たしました。
先述したように、DJのシャウトが起源のプロデューサータグ。
プロデューサー自身の地位を高めるためという意味合いは大きそうです。
現にプロデューサーへの注目度は日本でも上がっているように感じます。
私が以前に書いたこのような記事も、プロデューサータグへの需要があって書いたものです。
ビートを盗用から守るため
また、プロデューサータグにはビートの盗用を防ぐ目的もあるようです。
VARIETY誌は Murda Beatz がトロントのラッパー Hardbody にビートを渡した際のエピソードを根拠に示しています。
you gotta tag your beats so people don’t steal them,
Are Producer Tags on Hip-Hop Songs a Mark of Quality, or Just Noise?
つまり、Murda BeatzはHardbodyに、ビートが盗まれないようにタグをつけると良いといわれたそうです。
アメリカのオンラインマガジン「DJBooth」の記事にもビートの盗用について言及した同様の記述があります。
Someone could very well use it without giving you credit, or even worse, claim it as their own. One way producers can prevent this from happening is through a drop. Adding a catchy little snippet at the beginning is like a watermark, it ensures everyone knows who the beat belongs to.
Producer Drops: An Absurdly Detailed Investigation – DJBooth
ビートの作者をクレジットすることなくビートを使用したりする人が現れる。
それだけでなく、ビートを自分のものだと主張したりする人が現れる。
プロデューサーはタグを挿入することで、まるで”すかし”のように、自分の曲であることを示すことができるのです。
ここまでで、プロデューサータグはプロデューサー自身の自己主張だけでなく、ビートを盗用から守るという実用的な側面があることもわかりました。
有名なプロデューサータグの例(世界&日本)
Metro Boomin
今回引用した記事の中で、XXLとCOMPLEXの両方で冒頭に名前が挙がっていたMetro Boominです。
特にCOMPLEXの記事では「「If Young Metro don’t trust you, I’m gon’ shoot you」というタグが「Tay Keith, fuck these n****s up」に移り変わって興奮しなかったらおかしい」と表現されるほどの絶賛ぶり。
一度は聴いてみてください。
Murda Beatz
次も先ほど引用させていただいたMurda Beatzのタグを紹介します。
Murda on the beat so it’s not nice
Murdaのビートだからナイスじゃない。
のタグで始まる楽曲は、ナイスな曲ばかりです。
2025年10月1日配信リリースの新曲を置いておきます。
Chaki Zulu
日本のプロデューサーからはChaki Zuluを紹介させてください。
「Husky Studio」「You’re now connected to Chaki Zulu」のタグで知られるChaki Zulu。
YENTOWNのメンバーとしても、他の幅広いアーティストとの共作もクオリティが高いです。
タグが聴こえると期待してしまうプロデューサーです。
おすすめ曲などはこちらの記事で紹介しています。
JIGG
次は「JIGGのビートが聴きたいな」でおなじみのJIGGです。
JIGGは現在大ブレーク中のアーティスト「HANA」のオーディションへの出演や、デビュー曲「Drop」をプロデュース。
ヒップホップシーンの外からも大きな注目を集めています。
JIGGも、おすすめ曲についてはこちらの記事で紹介しています。
まとめ
プロデューサータグとは、「音で自分を名乗る文化」であり、楽曲冒頭で自らの存在をリスナーに印象づけるための音声的なサインです。
もともとは90年代のミックステープ文化にルーツを持ち、プロデューサーの地位向上や、ビートの盗用防止といった実用的な背景から生まれたものでした。
近年ではプロデューサーとそのタグが存在感を強めています。
Metro Boomin や Murda Beatz のような世界的プロデューサーと、日本の Chaki Zulu や JIGGを紹介させていただきました。
今やヒップホップの楽曲に欠かせないものになりつつある「タグ」
今後、表現方法の一つとしてさらに地位を高めていくのではないでしょうか?
今後はプロデューサータグにも着目して楽曲を聴いてみてください。





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