2025年6月27日にリリースされたキタニタツヤの新曲「なくしもの」は、映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男~』のために書き下ろされた主題歌です。
この映画は、2003年に実際に起きた“でっちあげ事件”をもとに描かれています。小学校教諭・薮下誠一(綾野剛)が、生徒に対する暴力を訴えられ、メディアの餌食となり、誹謗中傷と社会的制裁にさらされる──しかし、彼は法廷で「すべては事実無根のでっちあげだ」と主張します。
真実が何かすら分からなくなるような混沌と絶望のなかで、それでもなお、“人間として生きていく”という問いが突きつけられる物語です。
そして「なくしもの」は、この問いに真正面から向き合った楽曲。何を失ったのかも分からず、それでも探し続ける“喪失の旅”を描いた歌詞には、私たちの現実にも深く響くテーマが込められています。
さっそく、解説・考察していきます。
※当サイトでは、音楽を聴いて感じたことを個人で考察・発信しています。
読者の皆さんにも、新たな視点や楽しみ方が届けば幸いです。
キタニタツヤ のプロフィール
キタニタツヤは東京大学出身のシンガーソングライター、ベーシストです。
「こんにちは谷田さん」名義のボカロPとしての活動や、ヨルシカのサポートベーシストとしての活躍が知られています。
個人名義では2020年にアルバム「DEMAGOG」でメジャーデビュー。
2023年にはTVアニメ『呪術廻戦 懐玉・玉折』のOPテーマとして起用された楽曲「青のすみか」が大ヒットし、同年には紅白歌合戦に出場しています。
2024年には中島健人との音楽ユニットGEMNからファタールをリリース。
個人や、タイアップでの楽曲の人気が高まっている、勢いのあるアーティストです。
「なくしもの」の基本情報
楽曲「なくしもの」の基本情報を整理しておきます。
- 楽曲名:なくしもの
- アーティスト名:キタニタツヤ
- 発売日:2025年6月27日(配信リリース)
- ジャンル:Jホップ・オルタナティブ
- 収録アルバム:なくしもの(シングル)
- 作詞:キタニタツヤ
- 作曲:キタニタツヤ
- タイアップ:映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男~』 主題歌
他者に奪われ壊され摩耗した人間が、全てを取り戻せないことを知っていてなお、再び他者を信じ手をとって立ち上がる。そういう強さは美しいなとこの作品を観て感じ、それを詞とメロディに込めました。
Music|映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』|絶賛上映中
以上はキタニタツヤのコメントです。
他者に奪われた人間が、再び他者を信じてをとって立ち上がる。
喪失の旅の中でもなお、他者を求める人間らしさを感じる楽曲です。
タイトル「なくしもの」が示すのは、失った“もの”ではなく“自分”
この曲の核は、「喪失」にあります。しかしそれは、鍵や財布のような物理的な“物”ではありません。
『ここは遺失物係です』
『何を失くされましたか』
『場所はどこら辺か、心当たりは』
なくしもの / キタニタツヤ
交番で落とし物を探しているような描写です。
何かを失くしたことは覚えている。けれども実際には“何をなくしたか”思い出すことができません。
すっからかんの頭とすっからかんのカバンの
底は抜けていた
なくしもの / キタニタツヤ
“自分”という存在の中身が抜け落ちてしまった感覚──これはまさに、映画の主人公・薮下が体験する喪失と同じです。教師としての日常、世間との信頼、自分の存在価値。それらが暴力的に奪われ、底の抜けた人生をさまよい歩くしかない。
何を失くしたのかさえもわからなくて
けれど大事にしてたことは憶えていて
なくしもの / キタニタツヤ
この一節が、この曲のテーマを最も端的に表しています。
「失われたものの形」は曖昧でも、「それは大事だった」とは確かに分かる──そのズレが痛烈なのです。
映画と歌詞が交差する“でっちあげ”の痛み
映画『でっちあげ』では、まさに“事実ではない嘘”によって人生が壊されていく様子が描かれています。新聞記者の暴走、世間の断罪、ネットの悪意、味方の裏切り。正しさが逆転し、真実が消えていく世界です。
そんな中、キタニの歌詞はこう語ります。
天から賜るこの不幸せに
前触れも、筋合いもない
なくしもの / キタニタツヤ
“筋合いがない”──これは、理不尽な加害に苦しむ人間の心からの叫びでしょう。誰に説明しても通じない苦しさ。正しいと思っていた自分が、いつの間にか加害者とされていることへの絶望。
不幸には、前兆などないのです。
歌詞中では詩的に、”理不尽に加害に苦しむ様”が表現されています。
無邪気な子どもがそう望んだから
気まぐれで手折られた花ひとつ
・・・
ふわり舞った蝶がふと疎ましくて
徒に毟られた翅ひとつ
なくしもの / キタニタツヤ
無邪気な子どもが悪意なく花を摘むように、理由もなく不幸の対象は選ばれる。
綺麗な蝶が疎まれ、気まぐれで翅を毟られてしまうかもしれない。
不幸というものは理由もなく突然降りかかる。
そんな無作為の脅威のようなものが表現されているように感じました。
虚無と喪失に耐える歌詞の構造
この曲のもうひとつの魅力は、語り手が感情をぶちまけたり、怒りを爆発させたりしないこと。
むしろ、淡々と“喪失”を語る冷静さが、逆にその痛みの深さを際立たせています。
ただ生きていたって意味がさして無いように思えて
諦めることばかり考えます
なくしもの / キタニタツヤ
“生きる意味がない”という言葉を、穏やかに歌います。
理由を並び立てるよりも疲労感がにじみ、リアリティを感じる表現です。
ひとつも戻らなかったカバンの中
明日も明後日もそうでしょう
なくしもの / キタニタツヤ
何かを抱えていたはずのカバンは、気づけば空っぽ。これは「何かを大切にしていた」という自負すらカバンの中から抜け落ち、無意味に感じさせる現実を示しています。
「がらんどうに向き合えたら」──それでも生きる理由を探し続ける
絶望だけで終わらないのが、キタニタツヤが描く”現実”の魅力なのではないでしょうか。この曲は、自分の中の“空っぽ”からも逃げないことを選びます。
探し続けていたら
がらんどうに向き合えたら
いつか生きててよかったと思えるでしょうか
なくしもの / キタニタツヤ
これは、希望ではなく“問い”です。
失くし続けた先の自分と向き合うことが出来たら生きていてよかったと思えるか?
この問いを持てることが、希望の始まりだとも感じます。
そしてラストに語られるこの祈り。
誰かを踏み潰す雨が止みますように。
差しのべられた手をちゃんと取れますように。
失くしものをあなたと見つけられますように。
いつか、いつか、いつか、いつか、
いつか。
なくしもの / キタニタツヤ
この“あなた”とは誰なのでしょうか?
聴き手かもしれない、共に傷つく誰かかもしれない。たいせつだったあなたかもしれない。
それこそ、世間に一方的に断罪された薮下に向けての願いなのかもしれません。
「失くしもの(なくしもの)」という曲名が、唯一登場するのがラストのこのパートです。
歌詞中描かれてきた喪失の旅。失くしてきたものを一緒に探していけるようなあなたという希望を願っているようにも感じます。
キタニタツヤが描いた、“でっちあげ”のその後にある風景
「なくしもの」は、映画のストーリーそのものをなぞるのではなく、“それでも人は生きていく”という後景を静かに描いています。
人生には、理不尽な“でっちあげ”が起きることがある。正しさがひっくり返ることもある。何が真実だったのかさえ分からなくなる。
そうしてたくさんのものを失くしてもなお「何かを大切にしていたこと」は、消えずに心に残っている。その記憶だけを頼りに、がらんどうの中で、また一歩、前に進む。
”理不尽な不幸”そんな冷たく思いテーマのこの楽曲にも、”いつかあなたと失くしものをみつけられますように。”そんな祈りが込められている。
喪失の旅を進み続けた先に一筋の希望がある。
そんな風に、僕はこの曲を受け取りました。
まとめ:喪失の先に、あなたと“なくしもの”を見つけにいく
「なくしもの」は、“何を失くしたかすら覚えていない”喪失の旅に寄り添いながら、それでも「探し続ける意味」を問いかける歌です。
映画『でっちあげ』と同じく、この楽曲も、加害や被害の線引きではなく、「その中で生きる人間」の心にフォーカスしています。
私たちもまた、何かを失くして、それでも生きる意味を探し続けている。
それはつまり人生そのものです。
だからこそこの歌は、聴く人の心の奥に、そっと届くのだと思います。
いつか、生きててよかったと笑える日が来るように。
一歩ずつ進み続けてみましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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